Hananoka

Rice

米の品種の可能性

穂増は江戸時代と同じ自然農法が適している

収穫を待つ酒蔵横の穂増の田

収穫を待つ酒蔵横の穂増の田 隙間は昆虫たちに食べられた稲の跡

世界初の先物取引市「堂島米市場」

世界初の先物取引市「堂島米市場」。堂島川にせり出し相場を伝えるため旗が使われていた(芳光画より再現)

稲架掛けされた穂増

収穫はすべて手作業で行う 稲架掛けされた穂増

在来種

在来種は自然界の摂理の中で育まれる

米の品種の可能性
Potentials of Rice Cultivars

米の名産地ならでの「米」への探究心から、酒の未来と多様性を導き出したい。

原料が米だけの日本酒にとって、米はもっとも重要な産土(テロワール)の要素です。花の香酒造が位置する熊本県の和水町地方は、菊池川流域にある米の名産地のひとつであり2000年に及ぶ米づくり農業の文化が何世代にもわたって伝承されてきた土地です。
2017年にはその菊池川流域での米作りの歴史が、文化庁の「日本遺産」として認定されています。日本酒づくりに適した米「酒米」もその歴史の中から生まれました。

現在、全国の酒蔵で使われている酒米の主流は、日本各地でつくられた「山田錦」です。私たちの酒蔵でも「山田錦」を使っていますが、あくまで品種のひとつ。重要なのはどんな品種の米でも、酒づくりに必要な全ての量を、和水町の田んぼのみで栽培した米で補うという点です。これは私たちの独自の価値観です。

私たちは新たな発想の取り組みも進めています。あえて江戸時代と同じ在来種の品種「穂増 (ほませ)」と、江戸時代と同じ製法「生酛造り」から最先端の日本酒を導き出すという挑戦です。この米の品種への可能性探求が生み出す「なにか」は、きっと日本酒の未来に魅力的な個性と多様性をもたらすことができると私たちは確信しています。

Exploring the potentials of various cultivars in this famous rice production area creates an exciting future for sake and sake diversity

Rice is the only raw ingredient used in sake, and it is the essential ubusuna (terroir) element. The Nagomi-machi region where the Hananoka Sake Brewery is located, is one of the most highly reputed rice production areas in the Kikuchi River basin. The growing of rice here has continued uninterrupted for two thousand years, and cultivars of rice specifically for sake making were developed in this region.
In 2007 the Cultural Affairs Agency of Japan designated this history of rice cultivation as a ‘Japan Heritage’.

The main rice cultivar presently used by sake brewers throughout Japan is ‘山田錦:Yamada-Nishiki’. Yamada-Nishiki is also one of the cultivars used by Hananoka Brewery. Of primary importance for us is that all the rice needed for our sake be supplied by farms in Nagomi-machi. This is our core value by which we carry out our sake production.

We are now engaged in an exciting challenge. During the Edo Period (1603~1868) a domestic rice cultivar called ‘穂増Homase’ was employed in sake production. With this same cultivar and with techniques from the Edo era, Hananoka Brewery is creating a new high-quality product having that certain “je ne sais quoi” that we believe will offer originality and diversity in the future of Japanese sake.

「和水町」は江戸時代「天下第一」と呼ばれた肥後米の米どころ

江戸時代後期、熊本肥後藩が産出する米は「肥後米」と呼ばれていました。当時の和水町付近で栽培され高瀬港(現在の玉名)から船で大阪へ輸送されていた在来種の米もその肥後米のひとつでした。肥後米はやがて日本初の商品取引市場となる「大阪堂島米会所」で「天下第一の米、肥後米」として高い評価を受けることになります。和水町地域は、昔から美味しい米を産み出す、米どころでもあったのです。

現在、主力の酒米である山田錦は、必要な量全てを和水町の田んぼのみで栽培しています。山田錦は酒造りに向いた優秀な米の品種ですが、米どころに育った私たちには、なるべく交配交雑をやっていない地元の米を使いたい、米を研がない低精白の酒を醸したいという特別な思いがありました。この江戸時代の在来種という存在が、この思いに新しい可能性をもたらしてくれました。

米俵を船で運ぶ
米俵を船で運ぶ(菊池川水運)

肥後熊本藩最大の穀倉、菊池川流域の年貢米は菊池川水系を高瀬(玉名)まで平田船を使って輸送され、藩直営の大小四棟の高瀬御蔵に集積された。
(絵:想像図 引用:玉名市歴史博物館こころピア「川と港展」より)

米俵の荷降ろし
高瀬の港(玉名)米俵の荷降ろし

高瀬の港は加藤清正が菊池川水系の米の集荷、大阪への船輸送のため開港。全国から堂島に集まる米四五〇万俵のうち、肥後藩の四〇万俵は全国一。高瀬からは二〇万俵を積み出した。「俵ころがし」の伝統が今に残る。
(絵:想像図 引用:玉名市歴史博物館こころピア「川と港展」より)

肥後橋
肥後橋

肥後橋はかつて、肥後殿橋とも呼ばれていた。その名前は、肥後・熊本藩の蔵屋敷(年貢米などを納めるため大阪に設けた川沿いの倉庫)が近くにあったことに由来する。元禄時代になり、肥後・熊本藩の蔵屋敷は中之島の西の方、越中橋北詰へ移ったが橋名はそのまま残った。

復活した江戸時代の肥後米「穂増(ほませ)」の栽培と酒の探求

和水町のある菊池川流域には2000年以上前から続く、米づくりの歴史があります。水田稲作の起源とされる唐津菜畑遺跡と共に、古代の稲作の謎に満ちた地帯です。長い時間の中で稲の品種は様々に変遷し、土地の在来品種の米としてこの地に受け継がれてきました。
肥後米のひとつとして記録が残る「穂増(ほませ)」もそのひとつ。しかし「穂増」は明治初頭に消滅し、2017年に農家で奇跡的に40粒の種籾が見つかるまで、幻の米となっていました。

2000年、地元の農家と自社農業部でも、その「穂増」を江戸時代と同じ自然農法で栽培する取り組みがスタート。稲が倒れるなどの数々の失敗と経験を経て、現在では収穫と江戸時代と同じ伝統的な製法「生酛造り(きもとづくり)」による酒づくりができるまでになりました。在来種、その可能性探求はまだ始まったばかりです。皆さんとその探求の愉しさを共有することも、私たちの思いの一つです。

肥後米
穂増の米
穂増の米(右)

和水町産の穂増は、山田錦(左)に比べ、やや小さい。他にも山田錦と比べ「丸みがあり太く短くずんぐり」「お日様の香りがする」などの表現もある。

田んぼと対話する産土の酒づくり

なぜ先人たちの努力で酒米としての品質が良くなったのに、わざわざ昔の米を、手のかかる自然農法で栽培するのか?と聞かれることがあります。確かに自然農法や不耕起栽培への取り組みには大変な手間がかかります。しかし「日本酒がまだ出会っていない何かがある」という未知の可能性は、その苦労以上の価値と魅力を与えてくれると感じています。
酒米として使う山田錦全てを和水町町内で栽培した米「産土米」とする取り組みの経験を経て、私たちは在来種という、もうひとつの可能性をへたどり着きました。かつて日本酒が、地元の米から醸される「お国の酒」であった時代、私たちの酒蔵の前に穂増や在来種の稲穂が揺れる、嫋やかな農の風景が広がっていたことに思いを馳せながら、田んぼと対話する産土の酒づくりを続けています。

手で収穫
一本、一本を手で収穫

穂増の栽培過程には苦労が多く、稲が倒れる「倒伏(とうふく)」や稲穂から種モミが落ちる「脱粒(だつりゅう)」が起きやすいため、田植えから収穫まで、文字通り一本一本の苗を手作業で大切に扱わなければならない。

穂増の畑
酒蔵横、自然農法の穂増の田

発見された種籾から復元した穂増は品種改良がされていないため、江戸時代と同じ農法でないと生育が難しい。そのためできるだけ当時と同じ無農薬・無肥料の自然農法での栽培の研究を続けている。水生動物や昆虫たちによる田の「虫食い(田に見られる黒い隙間)」も多い。

産土シンボル
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