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産土アーカイブスUbusuna Archives

産土ポッドキャスト -ubusuna- #episode8
第八回|4人目のゲスト「仙禽十一代目蔵元 薄井一樹さん」との対話

-神田@ 今日は遠いところありがとうございます。茶室の床の間の「不染」の扇子は細川家の当主、細川護熙さんの書で、長くにわたり染まらないという意味だそうです。伝統ある素晴らしいこの茶室で今日は対談をさせていただければと思ってます。
-薄井@ こちらこそ、お招きいただいてありがとうございます。

神田@ じゃあちょっと、足を崩して・・。肥後古流は400年、一切ですねその不染という、何も染まらず、原型をそのまま伝承されています。何も変えずにこられてるというところがですね、なんか薄井さんのその木桶や、生酛、原原種の米「亀ノ尾」を使われて、今の酒造りをされてる部分と、非常に似ている、近いものもあるんじゃないかなと。どういったところからはじめたんですか?

薄井日本酒って伝統文化って言われてもね、明治に入ってから革新的な作り方で変わってきている。仙禽の場合は、結構大量生産の方に舵を切っていた時代でしたんで、私が酒蔵に入ったときは。

神田@ なるほど。

薄井日本酒の伝統や、今で言うクラフトとかね、手作りと呼ばれる部分とはだいぶかけ離れていたので、危機感を感じたんですね。かつては木桶で作っていたが廃れていたり、今私達が当たり前に使っているお米というものも、かなり人間が作りやすいように交配を繰り返して、遺伝子も組み替えられて現在に到っているということ。これはちょっと一旦、時計の針を戻してあげるというか、江戸時代のスタイルに一度戻していく必要性があるのかなというところから、木桶や生酛っていうね、神田さんもやってらっしゃる昔の作り方に戻していったんですよね。

神田@ 本当素晴らしいですよね。薄井さんのテロワールに関しては非常にリスペクトというか敬意を持ってました。薄井さんにとってのテロワールはどういったものですか。

薄井テロワールという言葉を、たしか一番最初に私が用いたのはもう10年以上前だと思います。当時はそのテロワールという理念とか思想を広めるためには、今は、産土があるからいいけど、今まであった言葉を使わないと誰も振り向いてくれなかったんで。仙禽で言えば、栃木県さくら市という風土があって、そこには根付いている文化とか空気がある。その中で全て完結できるお酒作りをしたいという思想的な部分なんです。それをほら神田さんは産土という新しいその日本の和語でね、語ってるから、うらやましいです。

神田@ 産土の精神の原点というのは、やっぱり薄井さんのそのテロワールというものを知ってからの今なので、本当にありがとうございます。

薄井いやとんでもない。光栄です。

茶室の床の間の「不染」
産土ポッドキャスト 対話
扇「不染」
扇「不染」(細川家当主、元内閣総理大臣 細川護熙氏直筆)

-神田@ 花の香では江戸時代の米「穂増」を復活して使ってますが、どんな気持ちで「亀ノ尾」を今使ってますか?
-薄井@ 「亀ノ尾」「穂増」は作りやすいはずがない。そんなことはもう重々わかって、僕らやってるんですけどもね。

薄井お米って、どんどんどんどん便利になってきて、食べるお米であれば、美味しくなるように、お酒造りの米であれば、僕たちが造りやすいように、精米しやすい、溶けやすいようにね。でもそれはある意味、自然に反してることだから。当然いろいろ改良される前のお米というのはね、使いにくいし、水は吸わないし。

神田美味しいお酒になるのっていう感じですけどね。

薄井やっぱり農作物である以上、自然の摂理と逆の方向に行ってしまうのは嫌で、ひねくれてるのかもしれないけど、昔のね、お米にやっぱり戻していくというのが、農地ひとつとっても、農薬を使わないという作り方というものがもっと当たり前になっていけば、その自然環境も変わっていくし、酒蔵として日本酒を作ることが目的なんだけど、僕たちはそういうことができるんじゃないかなと思うんですね。

神田そうですね

薄井そこは共通の考え方なのかなって感じてます。

仙禽十一代目蔵元 薄井一樹
神田清隆

-神田@ 肥後古流は利休の茶をそのまま400年、伝える「原形伝承」。酒づくりの「原型」を伝承していく薄井さんは、どう思います?
-薄井@ 変えないという美学。シンプルだけどとても難しいこと。

薄井@ とても私達の日本酒造りとも共通する部分があると思うんだけど「どこで変わっちゃったんだろう日本酒は?」と考えたんだけど、明治以降に科学的に楽な酒造りになって、そんな便利な時代に僕たちはあえてその微生物が主役の、ちょっと人間の力ではどうにもならないような酒造りを今してるじゃないですか。だからその伝統への転換が一つポイント。日本酒は確かに変わってきていると思います。

神田茶道や神道という道のように、醸造道っていう道があればと思います。あんまりそこは言ってないんすけどね。

薄井@ 言った方がいいですよ。

神田神道で言うとお正月の行事は、神域をあらわす締縄で年神様をお迎えした後、15日の「どんど焼き祭り(どんどや)」で、また年神様を天にお送りするっていう精神性から来てるんだけども、今は「どんどや」はなくなり、しめ縄とか門松などのモノだけが残って、本来あるべき精神性がなくなっている。そうなると文化が廃れていく。だから伝統だけでなく精神性の伝承も、すごく大切だなと思うんですよね。

薄井@ 伝えないと、何でも駄目だって僕は思うんですね。どんなにその伝統だとか、格式があるものでも、人から人にちゃんと伝わっていかないと。400年変えなかったことはすごいことなんだけど、伝わらずに、人に知られてなかったらそれは大変もったいないことになってしまうし、存在しないものになってしまう。

神田文化継承って難しいですよね。

薄井@ 難しいですよ、本当に。若い人は、いろんな情報をたくさん集めていく今の世の中ですから、不必要なものは勝手にインプットされない仕組みになってる。そういう、不必要なものに日本酒や茶道、歌舞伎でなどが、そっちの世界に行っちゃうと大変にもったいないですよね。だからわかりやすく伝えるというのは大切ですね。敷居を下げるということではなくてね。

肥後古流に伝わる作法のひとつ「切柄杓」
どんどや
和水町のどんどや

-神田@ 消費者の人たちが、賢い選択をできるようになって欲しい。酒作り、米作りを通して自然が豊かになっていくことに繋がるような。
-薄井@ 伝え方を大事にするという大前提にありながら、受け手もね、正しい知識を得て、正しい選択をしなければいけない時代。

薄井@ みんなが豊かになろうとしてたくさん作ると、環境破壊や自然破壊にどうしても繋がってしまうから、適した量を作るっていうね、かつてのその日本のスタイル。だって、昔は有機栽培っていう言葉なかったじゃないですか。そのスタイルしかなかったから。でもその作り方だと、生産性と効率が悪いということなんだけど、でも生産性が悪くても、良いものが適した量で、良いものを摂取するということをみんながやってくれればそれで十分。少しずつやっぱり時計の針を戻しながら、僕たちの伝え方も変えて、あとは受け手の方々のね、意識を変えるということも今後必要になってくるとは思います。

神田我々のやってる取り組みは、すぐにはやっぱり難しいでしょうけど、次世代の我々の次の世代に何か少しでもですね、何かプラスになって、より原点に戻りながら伝承していくことができたらいいですよね。

薄井@ 大多数の人がね、口に入れている日本酒、口に入れているお米というのはね、本当に薬漬けのものが多いから、そうですね、正しい知識をね、得るということが、これからの時代大切になってくるんじゃないかな。子どもたちのためにもね。もう地球もだいぶ傷んでる。かわいそうですよ、土壌がね、本当に、本当に。

神田ほんと、そうですね。栃木と熊本ってね離れてますけど、同じ思想を持ちながらやっていけたらいいですね。

薄井@ 本当、遠かったな。(笑)

薄井@ 何回もうちの蔵にも来てもらってるしね。

神田離れてるからこそ、同じ思想持ってやっていくことが、何か広く繋がっていけばいいなと思いますよね。

薄井@ 昨日、田んぼ見せてもらって、同じ考え方で、昔の米を大事にして、薬品が使われていないね、お米を保全しようという同じ共通の考え方の田んぼでも、田んぼの雰囲気、田んぼの顔が全然違うってのは、すっごく勉強になった。こんなに違うんだっていうのはね。驚きましたよ。いい発見だった。

神田いやいや、私も薄井さんの冬期灌水とかもっと勉強したい。

薄井@ 僕たちは酒造りは僕たちプロだけど、お米作りってまだまだ、本当に難しいですよね。また田んぼを見せてください。

神田本当に、本当に難しい。栃木の桜の田んぼも、ぜひぜひ行きたいですね。じゃあ、次回はまた栃木でいろいろ教えてください。

産土ポッドキャスト 対話
仙禽十一代目蔵元 薄井一樹
冬期灌水
冬期灌水(花の香酒造)
第八回|4人目のゲスト「仙禽十一代目蔵元 薄井一樹さん」との対話

産土ポッドキャスト #episode8 2022.6.10

第八回|4人目のゲスト「仙禽十一代目蔵元 薄井一樹さん」との対話

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